かつて、日本の商社は「不要論」にさらされたことがある。
メーカーが直接取引すればいいじゃないか、間に挟まるだけの商社なんていらない、そう言われたのだ。
まるで、今のアート業界で「ギャラリーはいらない」と言われるのと同じ状況だ。
アーティストはInstagramなどのSNSで作品を売れるし、海外のマーケットにも直接アプローチできる。
コレクターもギャラリーを通さずに作品を買える時代になった。だったらギャラリーは消えていく運命なのか?
いや、そう単純な話ではない。商社がそうだったように、ギャラリーにもまだ「進化の余地」があるのではないか。
商社はどうやって「不要論」をひっくり返したのか?
1990年代、商社はまさに「仲介業者なんて不要」と言われていた。
かつての商社は、海外の製品を仕入れ、国内のメーカーや小売店に売る「橋渡し」の役割を担っていた。
でも、インターネットの発達やグローバル化で、メーカーは直接取引できるようになった。
昔は英語もろくに話せなかった国内企業が、世界の取引先と直接交渉できるようになり、商社は「ただの中抜き業者」とみなされたのだ。
このままでは消滅する。商社はそう考え、ある方向へ舵を切った。「仲介」から「投資」へ、そして「情報ビジネス」へと変わっていったのだ。
例えば、三菱商事は食品事業に乗り出し、コンビニや外食チェーンを手に入れた。
伊藤忠商事はユニクロやファッションブランドとの提携を進めた。
住友商事はエネルギー資源を抑え、資源ビジネスのプレイヤーになった。
彼らは、単に「物を右から左へ流す業者」から、「自分たちで市場を作り、価値を生み出す企業」へと変貌したのだ。そして、もうひとつ重要だったのは、「情報」を握ったこと。
商社は膨大な市場データを分析し、「どこで何が売れるか」「価格がどう変動するか」「どの国がどの資源を求めているか」を先回りして把握するようになった。
いわば、経済の「未来予測装置」になったのだ。こうして、単なる仲介業ではなく、「情報と資本を武器にする企業」へと進化した商社は、むしろ以前よりも強くなった。
ギャラリーは「芸能プロ」としての進化を遂げるのか?
ここで視点をアート業界に戻してみよう。
ギャラリーもまた、「中抜き業者」と言われるようになってきた。アーティストがSNSを駆使すれば、直接コレクターとつながり、販売ができる。いわば、「メーカーが直接取引を始めた」のと同じ状況だ。そうなると、ギャラリーは不要なのか?
しかし、ここで参考になるのが、日本の芸能プロダクションの仕組みだ。
旧ジャニーズ、吉本興業、AKBのような大手芸能プロは、タレントを発掘し、育成し、メディアに売り込み、ファンをつけることでスターを生み出してきた。
ギャラリーも同じように、新進アーティストを発掘し、展覧会を開き、コレクターに売り込み、作品の価値を高めてきた。
これは、かなり「芸能プロダクション型」のビジネスだ。
ところが、芸能プロもまた大きな変革期を迎えている。ジャニーズ帝国の崩壊、吉本興業の契約トラブル、AKBのシステム疲弊……。
一方で、ハリウッドや海外の音楽業界はどうか?
そこでは「エージェント制」が主流になっている。
つまり、個々のタレントが専属の事務所に縛られるのではなく、フリーランス的にエージェントと契約しながら活動するスタイルへと移行しているのだ。
この流れが、アート業界にも訪れるかもしれない。つまり、アーティストが一つのギャラリーに縛られるのではなく、個別のエージェントを持ち、プロジェクトごとにギャラリーと契約するスタイルへと変わっていく可能性がある。
ギャラリーは「商社+芸能プロ」のハイブリッドへ?
では、ギャラリーの未来はどうなるのか?
商社が「仲介」から「投資と情報ビジネス」へと進化したように、ギャラリーもまた、単なる作品販売の場ではなく、「アーティストの価値を最大化する企業」へと進化できるのではないか。
例えば、
・アーティストへの投資・・制作資金を提供し、リターンを得る
・データ活用・・どのアーティストがどのマーケットで受けるかを分析
・エージェント型モデル・・アーティストが複数のギャラリーと契約できる仕組みをつくる
これらが実現すれば、ギャラリーは単なる「展示販売の場」ではなく、「アーティストのキャリアをプロデュースする組織」へと変わることができる。
商社は「中抜き業者」から「情報と投資のプロ」へと進化した。では、ギャラリーはどうか?
これからの時代、「アーティストの未来を作るプロデューサー」へと変貌できるのか?それとも、ただの販売代理店として消えていくのか?
商社の進化が示しているのは、「仲介業者も、時代に合わせて変われば生き残れる」ということだ。ギャラリーもまた、その進化のときを迎えているのかもしれない。
今、アートの世界に「商社のDNA」が必要なのかもしれない。
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2025年2月21日(金) ~ 3月11日(火)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日2月21日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:2月21日(金)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
tagboatのギャラリーにて、現代アーティスト手島領、南村杞憂、フルフォード素馨による3人展「Plastics」を開催いたします。「Plastics」では、表面的な印象や偽りの中に潜む本質を提示した3名のアーティストによる作品を展示いたします。